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JR恵比寿駅は、その昔下渋谷という地名だったという。サッポロビール本社が居を構えるこの地域はヱビスビール工場があり、ビール出荷用の貨物駅があった。貨物駅はいつしかビールの商標の恵比寿と呼ばれるようになり、1929年、正式に恵比寿という地名になった。そう考えると恵比寿はビールと縁の深い土地柄である。

恵比寿駅東口から徒歩三分。バス通りから路地を少し入ったところにテラス席のある小さなイタリアンレストランがある。雑居ビルの一階に位置するその店はレストランというよりビストロといった雰囲気で、お酒と料理を楽しむにはもってこいだ。路地に隠れていることもあり恵比寿に縁が無い人にはあまり馴染みのない店であろう。香辛料を店名にしたそのお店はいつも大勢の客で賑わっている。女性客が多いが、ビジネスマンの姿も意外と多い。カジュアルだけど少しフォーマルさを残したいでたちを見ると、いかにも恵比寿らしい雰囲気の店だと思う。

オレンジ色の暖かい照明で照らされた店内を、一上はビールをぐいっと飲み干しながら見渡した。今日は数年ぶりに大学の同期と集まる予定になっているが、まだ誰も来ていない。丁度恵比寿にある英会話スクールに通っていたので、一上はレッスンを受講し、その後待ち合わせ場所であるこの店に直行したのだった。

前回皆であつまったのはいつだっただろう?まだ学生気分が抜け切らない二十代半ば、気の置けない仲間と集まった時はいつも居酒屋で仕事の悩みや将来の夢を語っていた。あれから何年か経ち、それぞれ家庭を持って会う機会も減り、会社では中堅の役割を担うようになった。一上は空になったグラスを持ち上げ、店員にビールをもう一杯と合図した。時計を見るとまだ待ち合わせ時間より大分早い。運ばれてきたビールに口をつけながら何となく鞄からレッスンで使った教材を出した。

What have you achieved?
What will you have achieved by the time you’re fifty?

現在完了と未来完了の違いが書かれている。日本語で言えば、これまでに何を達成したか、五十歳までに何を達成しているであろうか、の違いである。レッスンでは難しくて講師の質問に答えられなかったが、これから集まるであろう友人たちと過ごした日々を思い出しながら、五十歳までに達成するであろうことに思いを馳せてみた。

I haven’t achieved my dream yet. But I will have
achieved my dream by the time I’m fifty…

まだ夢は達成していないが、五十歳までには夢を達成する・・・。一上はdreamという単語を入れてみて例文を作ってみた。今まで作れなかった例文が簡単に出来たではないか、と我ながら感心しながら再びビールを口に運んだ。不意に正面の扉があき、大きな声の客が入ってきた。_x000B_

「よー!さっそく飲んでるのか。こっちは無理やり仕事を抜けてきたっていうのにお前は早いな。なんだそれ、どれどれ。何、お前英語勉強してるのか?あんなに英語が嫌いだったお前が英語だなんて時代も変わったね。」

どかっと腰を下ろした旧友は学生時代と全く変わらない騒々しさだった。
旧友は早速ビールを頼み、ふたりは乾杯した。

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