時代の荒波

男たち

それは本当か?

へい。間違いないっす。この耳でちゃんと聞きましたんで。

ついにこの業界にもグローバル化の波が押し寄せるのか。それで親父は具体的に何と言ってる。

へい。親分は「どうせオメーら、勉強なんかしてきてねーだろうから、まずは一年でTOEIC250点を目標にしろ」とおっしゃってます。目標をクリアできない奴は、破門かフィンガーをカットだそうです。

何!250点とはどういうことだ?どうやったらそんな点数取れるんだ。親父は気でも触れたか!

兄貴、安心しておくんなさい。TOEICは百点満点じゃないんです。聞くところによると990点らしいです。しかもマークシート。ええと、マークシートっていうのは何と言いますか、四択クイズみたいなもんでして。

じゃあ四分の一の確率で当てて行けば250点は越えられるんだな。よし。ならば可能性はあるかもしれん。それでヤス、お前はどうなんだ。250点取れるのか?

正直きびしいっス。自分は小さい頃から勉強嫌いです。自慢じゃないですけど体育と図工以外の成績は目も当てられません。もし駄目だったら、今後の身の振り方を考えないといけません。はー。実家のIT企業でも継ごうかなー。

なんだそりゃ。こういう時の実家の稼業ってのはフツー農家とか豆腐屋とか、いわゆる実家っぽいやつだろ。

兄貴、ドラマの見すぎですよ。自分は平成生まれのゆとり世代でデジタルネイティブっスよ。親もまだ四十代でバリバリ現役です。ちょうどITバブルなんかを経験した世代で、大変な時もありましたが、そこを力強く乗り越え、最近はM&Aなんかもして人手が足りないらしいんです。父親も、世の中をITでもっと良くするんだって頑張っているんで、自分も世の中の為に・・・

素敵なエリートかこの野郎。一生懸命な親父さんの話にちょっと心が温まったじゃねーか。だったらお前、TOEICで結果出せなくても大丈夫なんだろ、コラッ。

痛っ。殴らないで。面目ねえっす。

それにしても何とか英語を避けて、この渡世でやっていけねーのかなぁ。

(そこへ若頭登場)

ハロー。うだつの上がらないジェントルメン。ひょっとして、英語に関するプロブレムをディスカッション中かい?

わ、若頭! おはようございます。なんだかもう英語ペラペラじゃないっすか!

そう言うな。こう見えて、俺はグローバルなアウトローだ。お前らとはステージがディファレントなんだよ。

凄い。英語が上手すぎて聞き取れない・・・。

まあ、せいぜい英語のスタディするこった。お前たちが結果を出せなかったら流石の俺もどうする事もアイキャンノットだ。ワンオアエイトで勝負を掛けて見ろ。

ワンオアエイト・・・。一か八かって事っすね。ありがとうございます。必死にやらせて頂きます!

はっはっは。ゲッチュー、ゲッチュー。
その調子でテイクイットイージーメーン。

(若頭、歩き去っていく)

おいヤス。俺も若頭みたいに英語ペラペラになってやるぞ。

兄貴!若頭の流暢な英語を聞いて自分も勇気が出てきました。俺も頑張るっス!

早速、英会話教室にでも入門するか。お前どこか良い教室を知ってるか?

えーと。スマホで検索すると・・・。何だかすごく沢山出てきましたよ。ほら。

おー、世の中にはこんなに英会話教室があるのか。どれどれ、うーん。ここが良さそうだな。なんだかスクール名にグッときた。ワンランク上を目指す感じがするぞ。

なるほど。このオレンジ色も何やら好感が持てますね。ハハッ。このブログ面白いっすよ。ほら、ヤマちゃんですって。

何、貸してみろ。うーん。ワハハっ。『社長、そんな英語はありません』だって、ウヒャヒャ。気に入った。俺はここでスタディハードするぜ。ヤス、早速ご挨拶に行ってみるか!

へい!兄貴!

その英会話スクールはその後、英語ペラペラなアウトローで賑わったそうだ。

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