london

ニックネームをつけなければならない。

そもそもニックネームやあだ名は他人がつけるものであって、自分でつけるものではないと思っている。富田雅人は困っていた。

念願のニューヨークへの海外赴任が決まったのは良いのだが、諸々の準備のさなか、意外とこのニックネームを決めるのに手を焼いている。

化粧品会社に勤める富田は、3年前に初めて海外出張に行った時、自身の英語力の無さに危機感を覚えて横浜にある英会話スクールに駆け込んだ。はじめは何となく通っていたが徐々に上達してくると苦手だった英語学習が意外と楽しくなってきた。スクールのイベントにも参加するようになり、リーディングのワークショップにも申し込んだ。腕試しで受けたTOEICのスコアは急激に上がり高得点をマークした。

その後、だめもとで社内応募した海外駐在だったが、応募者多数の中で富田に決まった。決め手はTOEICのスコア。デザイナーである富田の社内環境では英語に堪能な社員は多くなく、富田が獲得したスコアは他の応募者に比べ圧倒的に高かったという。

海外赴任にあたり、ニックネームが必要だったとは寝耳に水である。現地ではローカルのアメリカ人スタッフとのやり取りをスムーズにする為に駐在員はみなニックネームを持っているらしい。今回、富田の運が悪かったのは既に赴任しているメンバーの中になんと「マサ」も「トミー」もいたという事である。従って名前にちなんだニックネームが中々付けにくい。

アイデアに窮した富田は、そういった海外事情については、通っている英会話学校で聞いてみるのが良いのではと思い、馴染みのアドバイザーに相談してみた。最初にアドバイザーからもらった候補のニックネームは「マサ」「トミー」だったが、そのニックネームは既に使われているのでNGだ。途方にくれて自宅に帰りもやもやと考えていたところ携帯でメールを着信した。

【件名:トニーにしましょう】

差出人は英会話スクールのアドバイザー。本文にはこう書いてある。

マサが既にいるとの事でしたので、「マサヒト」の「ト」を利用してトニーでいかがでしょうか。

綴りはTONNY

Tomita “Tonny” Masahito.

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2018年3月、ニューヨークに到着した富田はローカルスタッフを目の前に緊張の面持ちで自己紹介をした。

Hello I’m Masahito Tomita. So you can call me Tonny.
T, O, N, N, Y.  Tonny.

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渡米から半年が過ぎ夏が終わった頃、「トニー」こと富田は業務にもようやく慣れ、現地の同僚と飲みに来ていた。アメリカ人の同僚デザイナーとはウマが合い、時々こうして仕事帰りに飲みにいく仲となっていた。他愛もない話をする中で同僚がそう言えばとニックネームの由来を聞いてきた。

So Tonny, why did you choose “Tonny” as your nick name. There should be a bunch of possible nick names, shouldn’t there?

Exactly, so I was having difficulty with choosing one. But one of my friends gave me “Tonny” for 2 reasons. The first reason is, you know, my first name is Masahito. So I quoted “TO” from my name.
And the other reason is … oh, have a look at this email.
Well …, Here you go.

富田は渡米前にスクールからもらった一通のメールをスマホで検索し、同僚に見せた。

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マサが既にいるとの事でしたので、「マサヒト」の「ト」を利用してトニーでいかがでしょうか。

綴りはTONNYでTomita “Tonny” Masahito.

このTONNYはTONYではないので注意して下さい。(Nが二つです)
というのも、このニックネームは「と」を引用しただけではなく、もう少し意味があります。

Take Off! Now or Never, Youngblood
(さあ飛び立て! やるっきゃないぞ青年!)

ということで、海外でのご活躍をお祈りしています。

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See? Tonny has another meaning. It’s so funny.
Actually I’m not so young though…

Oh that’s a good one, Tonny. Cheers!

トニーはそうしてビールを一気に飲み干した。

 

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