sky

「シートベルトの着用サインが消えましたが、飛行中は急に揺れることもございます。座席にお着きの方はシートベルトをお締め下さい」

羽田発、福岡行き。フライト時間1時間50分。

尚子はシートベルトをはずして伸びをした。窓の外は快晴。
ふうっ、と一息つき、羽田空港で買った弁当を取り出す。

空弁〝ヨネスケのこだわり天むす〟

食べやすさにこだわった五つの味の天むす。小さめの5つのおむすびは女性には嬉しい。品の良い客室乗務員に持ってきてもらった暖かい日本茶をじっくり味わい、お結びを食べる。天ぷらと米粒、日本人に生まれて良かったと思う。

「これが旅行だったらなお最高なんだけどねー」

晴れた太平洋を見おろしながらひとりごち、二つ目のお結びにかぶりついた。尚子は日帰り出張で福岡に向かっている。

「みなさま、ただ今当機は琵琶湖上空を飛行しております」

尚子は外の風景を楽しむのもそこそこに、バッグからおもむろに宿題のプリントを取り出した。英会話スクールの宿題である。到着まで時間があるので少しでもやろうかと考えたのである。内容は英文法。面倒だが仕方がない。なにしろ会社からはTOEICのスコアアップの大号令が掛かっている。

一枚目をようやく終えて、2枚目にはいったところ、不意に客室乗務員が尚子のもとにやって来た。

「お飲物はいかがですか?」

スラッとした感じの良い客室乗務員が微笑みかけた。

「じゃあ、ホットコーヒーを頂けますか?」

「かしこまりました」

熱いコーヒーで一休み。きっとあの客室乗務員は英語もペラペラなのだろう。爽やかな所作と笑顔がとても印象的だった。尚子はもう一度コーヒーをゴクリと飲みこみ、残りの宿題に取り掛かった。

「皆様、当機はあと10分ほどで福岡空港に着陸致します。福岡の天気は晴れ。気温は18度です」

機内アナウンスののち、先ほどの乗務員が冷めたコーヒーを下げに来た。尚子は宿題を片付けつつ、コーヒーを手渡すとそのキャビンアテンダントはこういった。

「宿題、お疲れ様でございました」

尚子は彼女の顔を見上げた。笑顔のキャビンアテンダントは続ける。

「実は私もその英会話スクールに通っているんですよ。宿題ですよね、それ?」

「えっ。あ、はい。・・・英会話、通っているんですか?」

「そうなんです。私は銀座に通っています。」

「えー!そうなんですか!私は恵比寿校に通ってます!それにしてもビックリ。CAさんも英会話習うんですね!」

少し照れながら彼女は微笑んで

「習いますよ! 今後の為に頑張ろうと思っていまして・・・でも、まだまだです。最近は宿題サボり気味ですし・・ふふ。」

「そうなんですね! なんだか共感します!」

「そろそろ私行かなくちゃです。お互い頑張りましょうね!」

彼女は一呼吸あけ、プロフェッショナルな所作に戻り

「それでは失礼致します。ご搭乗ありがとうございました」

丁寧に挨拶をした後、もう一度満面の微笑みを尚子に投げかけ、ギャレーに戻って行った。
尚子が通っている英会話スクールは小さなスクールである。あのスクールに通っている人とこんな空の上で会うなんて・・・。

「当機は着陸体制に入りました。全ての機器の電源を切り、シートベルトをお締め下さい」

シートベルトを締め、着陸体制に入った機内から外をみる。窓の外は晴天の福岡。尚子は福岡での仕事も頑張ろうと思った。

 

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