ビールの注ぎ方にはコツがある。
まず、注ぐグラス選びが大事である。炭酸を楽しむ為には細長いタイプのグラスが良い。保冷性を重視するなら金属のグラスが適しているが、ビールはやはり、あの色合いと泡を横からも見て楽しみたい。
おすすめは美しくゆるやかな曲線を持つ円筒形。そして底に丸みのあるものが適している。この形状のグラスは、ビールを注ぐと円を描くように下から上へとなめらかにビールが対流して、きめ細やかな泡をつくりだす。逆にグラスの口が開いているタイプは適していない。空気に面する面積が広いため炭酸が抜けやすい。そして泡が薄くなりあのクリーミーな味わいがなくなってしまう。泡はビールの蓋となり香りや炭酸ガスを逃さない効果もあるのだ。
また、ビールは冷たさが重要だ。室温で保管されたグラスよりも冷蔵庫で予め冷やしたグラスで飲むのが良い。キンキンに冷やしたグラスで飲むビールの味わいは格段に上がる。逆に、常温のグラスを使うとビールの温度が上がってしまい、ビール本来の爽快感を損ねてしまう。
ビールを缶や瓶のまま飲むのはお勧めでは無い。そのまま飲むと炭酸ガスがほとんど抜けないことから、苦味を強く感じたり、炭酸ガス圧による刺激を感じ、ビールの旨さを引き出せないからだ。
ビールを注ごう。
はじめは勢いよく。高い位置から一気にビールグラスに注ぎこむ。泡立てる為、この時グラスは傾けない。グラスの半分近くまできた段階で一度止める。次にグラスの縁に沿ってあまり泡立てないように九割程度まで注ぐ。泡が落ち着くまで小休止。最後に少しずつ、ゆっくりと注ぎ、泡がグラスの縁より高く盛り上がるようにする。このプロセスで泡はきめ細かくなっていく。これで完成。泡の比率は七対三の黄金比になっている。
仕事を終えて、自宅で風呂上り。冷やしたピルスナーグラスと完璧な注ぎ方でビールを味わってみる。
モグッ、ゴクッ、ゴクッ・・・
っかーーーーーーーっ、うまい!
浅井祐一はひとしきりビールを味わったあと、TOEICの問題集を開く。
「むむっ。なんでやねん。仮定法過去って一体何やねん。難しいわー、英語。ほんま嫌やわー」
祐一はタオルを肩からかけたまま、一人暮らしの誰もいない部屋でつぶやいた。もう一度ビールを口に運ぶ。会社からTOEIC700点の課題を課され一念発起。毎日寝る前の1時間はビールを飲みながら英語の勉強に明け暮れている。
We are facing a big problem and we have to work on it as soon as possible.
「えーと、私たちの問題は顔である。だから出来るだけ早く仕事をしなければならない・・・って、なんやねん。この例文。どんだけ不細工な顔しとんねん」
酔い始めた頭で、祐一はもう一度熟考してみる。
「わかった。わはは。あほやな俺。faceのところの訳がちゃうかった。この場合faceが現在進行形やから、『私たちは問題のある顔をしている』が正しい訳やな」
テキストの訳文をみる。
訳:私たちは大きな問題に直面しており、その問題には出来るだけ早く取り組まなければならない
「ええっ? 顔が問題ちゃうの? やってられんわー」
祐一はその後もしばらくテキストと格闘した後、おいしいビールのほろ酔い感と、英語に真面目に取り組んだ充実感とともに、心地よくベッドに倒れ込んだ。
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