― 2047年 恵比寿のとある研究所にて ―
博士!ついに完成しました!
おおっ。片山くん。ついに出来たか!
はい。これでもう人類に言葉の壁は無くなります。いやー、長年頑張って研究してきた甲斐がありました。クーッ。
そうか、ついに完成したか。で、万事問題無いのだな?
ええ、あとは人体実験を残すのみです。スーパーコンピューターで計算した結果、99.9%問題なく成功するはずです。
よし。念のため、『誰でも英語ペラペラ装置』の概要をもう一度説明してくれないか。
わかりました。コホン。まず、人間の脳には言語をつかさどる部位があります。ブローカ中枢とウェルニッケ中枢というのですがこれらは言語中枢と言われています。この脳の部位、すなわち言語中枢が脳内の言語を日本語から英語に自動的に切り替える事ができるのが『誰でも英語ペラペラ装置』です。これにより英語を学習する事なく英語がペラペラに喋ることができるようになるという画期的な発明なのです!
分かりやすく例えるとパソコンのOSの言語を切り替えるようなものです。丁度アプリをインストールするような感じで、こちらのパソコンからLANケーブルを経由して脳に直接英語を入れます。用意したのはジーニアスの辞書一冊分の情報。これを丸々インストールします。インストールが終るとあら不思議。OSが切り替わって、英語がペラペラと喋れるようになります。ちなみにインストールするファイルの容量にまだ空きがあったのでついでにスピードラーニングも一緒にインストールできるようにしました。従って効果は抜群です!
ふむ。それでそのLANケーブルはどうやって脳につなぐのだね?
技術の革新は日進月歩です。LANケーブルを右の鼻の穴に挿すだけでOKです。私共が開発した特殊なアダプターをケーブルの先につけるだけで鼻から脳への接続が可能となりました。
何!本当か!うーん。さすがだ。しかし、これが成功すると学校教育は全てひっくり返るぞ。これまで私腹を肥やしてきた英会話スクールも全て潰れてしまうな。ワハハ。世界の外交問題も全て解消に向かう。何しろ同じ言語で話し合うのだから世界の国々はランゲージバリアフリーとなり、フェアな国交となっていくはずだ。
片山くん!我々は世界平和の生みの親になれるかもしれんぞ!今年のノーベル平和賞は我々のものだ。さっそくこれをマスコミに発表しよう!
そう急がないでください。その為にはまず、今日の最終人体実験が必要なのです。その第一号はこの日の為に準備してきた私がやります。自慢じゃありませんが、私は英語を全く話せません。TOEICのスコアは驚くなかれ200点です。
でかした。片山くん。今の世の中で英語が全く喋れない研究者なんて君ぐらいだぞ。よくぞこれまで英語を避けてきてくれた。では早速やってみてくれたまえ。
わかりました。まずはLANケーブルを右の鼻に挿します。ぐっ、イテテ・・・。よし。では博士、ぴー。そこのパソコンからインストールのボタンをダブルクリックして下さい。ぴー。ふふ。そうです。鼻にLANケーブルを挿した関係で鼻がぴーぴー鳴ってますが気にしないで下さい。
さあ、もったいぶらずにダブルクリックを!それだけで英語がペラペラ!私から驚くほど英語が溢れてきます!
片山くん、いくぞ!ダブルクリーーーック!
・・・・。
おお、パソコンに砂時計マークが出てるぞ。インストールには結構時間が掛かりそうだな。うーん。楽しみだ。
〈1時間後〉
片山くん。
か・た・や・ま・くん!
・・・はい、博士。なんでしょう。現在インストール中の身なのであまり話しかけないで欲しいのですが、急ぎですか?
いや、ここの所を見るとインストールに掛かる時間が、あと3年ってなっているんだが。これは一体・・。
ははっ。それはインストールにあと3年掛かるという意味です。
なるほど。そうか。って馬鹿!あと3年間も掛かるのか!?
はい。それが何か・・・。ぴー?
コラッ!3年も掛かるなんて聞いてないぞ!君は私がここでインストールを3年も待つと思っていたのか!
はっ。確かに!僕も着替えや髭剃りを持ってきていませんでした。ぴー。
そういう問題じゃないぞ!せっかく鼻にLANケーブルを挿すところまで出来たのに、そこは考えてなかったのか。ぐぬぬ。この研究は失敗だ。イチからやり直しだ。
博士!すいません。僕の考えが甘かったです。不肖片山、割腹してお詫び致します。こうなったら責任を取ります。そっちのパソコンから私の脳にウィルスをインストールしてください!どうもすいませんでした。そして今までありがとうございました!(涙)
ばかっ!気は確かか! コンピュータウィルスをインストールしてどうする!しかもそのウィルスのインストールにだってどうせ2年くらい掛かるだろう。もういい。別の方法を考えよう。
博士・・・。すいません。ぐずず。
仕方あるまい。TOEIC200点の実力の君に、日本の語学教育の問題を解決させようとした私が愚かだったのだ。日本の語学習得はまだまだ英会話スクールの尽力が必要らしいな。片山くん、はやくその鼻水を拭きたまえ。またイチから研究し直しだ。これからも頼むぞ。
こうして博士の研究は失敗に終わり、日本の国民の語学力アップとグローバル人材の育成は、その後もしばらく英会話スクールに委ねられることとなったのであった。
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