umbrella

あと5分。絵美子は心の中で呟いた。あと5分で絶対起きる。何しろ今日は土曜日。やりたいこともやらなければいけない事も沢山ある。あと5分。もうちょっとだけ。ほんとにも・・・ちょ・・・。zzz。

時計を見ると10分経っていた。あと3分!絵美子は口に出して呟いた。あと3分で絶対起きる。何しろ今日は土曜日。やりたいこともやらなければいけ・・・。zzz。

時計を見ると20分経っていた。あと一っぷ・・・・って、ああっ!飛び起きた絵美子は目を凝らした。もらい物のピンクの時計は機械的な音を立てて無情な時刻を指している。
絵美子は考えた。このまま諦めるか、それとも急いで家を出るか・・・。

今日は英会話のレッスンの予約を入れているので、品川にある英会話スクールに行く予定なのである。英会話は行ってみると、楽しくその後の一日も充実するのだが、行くまでが面倒でたまらないと絵美子は常々思っているのである。
不意に玄関のチャイムが鳴った。

ピンポーン

こんな時に一体誰?身支度も整ってないこんな朝に。

ピンポーン、ピンポーン。ピンッ・・・ポーン。

かー。諦めないわねー。チャイムの押し方変えたって出ないからね。

春名さーん。お届け物でーす。ピンッ・・・・ポーン。

いたいけな女子の一人暮らしなんだから大声で名前を呼ばないでよ。それからそのチャイムの押し方にはまるんじゃないわよ!

は・る・な・さーん!ピンッ・・・・ポーン。

もう!わかったから!

絵美子はしぶしぶカーディガンを羽織り小走りに玄関へ向かった。ドアを開け、いかにも若い感じの配達員から荷物を受け取った。どうもー。と能天気に去って行った配達員には一瞥もくれず、荷物の差出人を見た。小包は母からである。長細い筒に入ったその包みをあけるとピンク色の傘が出てきた。

【えみちゃん 最近は忙しいみたいだから身体には気を付けてね。この間傘を無くしたと言っていましたね。デパートでとても素敵な傘があったのであなたに贈ります。時々こっちにも帰っておいでね。】

同封の手紙にはそう書かれている。ピンク色の時計に目線を戻すと、長い針が休まず勤勉に動いていた。思えばこの時計も母からの贈り物だった。母親は小さなころ好きだったピンクを三十路を過ぎた絵美子が今でも好きだと思っているらしい。何気なくテレビをつけ、絵美子はとりあえず受け取った傘を家の中で開いたり閉じたりしてみる。テレビからは折よく天気予報。「今日は午後から雨模様・・・」キャスターの予報を聞きながら絵美子は思った。

はいはい。この傘持って英会話行けってことね。ちょっと間に合わないかもしれないけど、急げば何とかなるか。

もうそんなに好きではなくなったピンク色の贈り物達を見ながらこの年になってもまだ背中を押してくれる母を思い浮かべた。いそいそと支度を始めた絵美子は、レッスンでピンク色の時計と傘の事を話してみようと思った。

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